終章 会社全体で見る(経営指標と決算資料)
この一件は、
決算書のどこに
現れるのか。
この章の、経営の問い
会社として、
健全に成長しているか。
場面 決算説明会の準備、会議室にて
つばさ損保の案件が保守に入った年。小野寺は、決算説明会の資料づくりを手伝っています。
早瀬
投資家の方から毎回聞かれるのが、3年目の利益が落ちた理由なんだ。あのとき、会社全体ではどう見えていたんだろう。
小野寺
数字を並べてみますね。一つの案件が、会社全体の数字をどれだけ動かしたかがよくわかります。
一つの案件が、会社を動かす
3年目、会社の利益は
2割減っていた。
第6章で見たとおり、3年目はつばさ損保の案件で、売上が計画より18億円少なく、粗利も18億円少なくなりました。会社全体で見ると、次のようになります。
| 期初の計画 | 実績 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 900 | 882 | −18 |
| 売上総利益(粗利) | 225 | 207 | −18 |
| 販売費及び一般管理費 | 135 | 135 | 0 |
| 営業利益 | 90 | 72 | −18 |
売上の2%しか減っていないのに、営業利益は2割減っています。販売費及び一般管理費(本社の費用など)は案件の調子に関係なくかかるため、粗利の減少がそのまま営業利益の減少になるからです。その年の決算説明会では「大型案件で原価の見積もりを見直したため」と説明しました。
経営の指標
健全さを見る、
七つの数字。
ITコンサル会社の経営者や投資家が見ている数字と、それが決算資料のどこに出てくるかをまとめます。
| 指標 | 何がわかるか | どこに出るか | この物語では |
|---|---|---|---|
| 売上高・粗利率 | どれだけ稼ぎ、どれだけ残したか | 決算短信(損益計算書) | 序章、第5章 |
| 営業利益率 | 本社の費用まで含めた、本業のもうけの力 | 決算短信 | この章 |
| 受注高・受注残高 | これから売上になる仕事の量 | 決算説明資料など | 第1章 |
| 稼働率 | 人が案件に就いているか | 主に社内の管理資料 | 第4章 |
| ストック比率 | 毎年続く保守・運用の売上の割合 | 決算説明資料など | 第7章 |
| 契約資産・売掛金と営業キャッシュ・フロー | 売上がきちんとお金になっているか | 貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書 | 第5章 |
| 重要な会計上の見積り | 原価の見積もりや損失の見込みが、決算にどう効いているか | 有価証券報告書の注記 | 第6章 |
ここで出てきたことば(押すと開きます)
- 受注高・受注残高
- 受注高は、その期に新しく契約した金額。受注残高は、契約済みでまだ売上になっていない金額です。蒼樹は工程ごとに契約を分けたので、受注高も契約を結ぶたびに積み上がりました。
- 決算短信・決算説明資料・有価証券報告書
- 決算短信は決算の速報で、証券取引所のルールにもとづいて出す資料。決算説明資料は、会社が投資家向けに自由な形で作る説明資料。有価証券報告書は、金融商品取引法にもとづいて出す、もっとも詳しい年次の報告書です。
あなたが投資家なら?
来年の売上を、
一番よく予告する数字は?
今年の売上は過去の結果です。大型案件が今年で終わるなら、来年は大きく減るかもしれません。
正解です。受注残高は、すでに契約が決まっていて、これから売上になる仕事の量です。ITコンサル会社の先行きを見るうえで、とても大切な数字です。
人数は売上の力の目安になりますが、仕事が決まっていなければ売上にはなりません。稼働率と合わせて見る必要があります。
小野寺の答え:B
ただし、受注残高も万能ではありません。第6章のように、受注した案件の中身が悪くなっていれば、売上になっても利益は残りません。受注残高と粗利率を、いつもセットで見ることが大切です。
経営の問いに答える
健全に成長している会社は、
こう見える。
- 受注残高が積み上がっていて、来年以降の売上の見通しが立っている
- 粗利率が安定している。下がった年は、理由がはっきり説明できる
- 保守・運用のような、毎年続く売上の割合が少しずつ増えている
- 稼働率が高い水準を保ちつつ、育成や提案に使う余力も残している
- 売上が契約資産や売掛金で止まらず、きちんとお金として入ってきている
- 危ない案件を早く見つけ、早く数字にしている
場面 資料ができあがって
小野寺
一つの案件を最初から追いかけてみて、決算書の数字の一つひとつに、現場の物語があるんだと分かりました。
真壁
現場から見ると、経理の数字は答え合わせであり、早めの警報でもありました。3年目は、本当に助けられました。
早瀬
さて、代理店システムの提案書だ。今度は最初から、三人で数字を見ていこう。
小野寺の経理メモ
つばさ損保の案件は、受注時の見込み粗利50億円に対して、着地は約38億円でした。数字だけ見ると「計画未達」ですが、変更の手続きに立ち返って12億円を取り戻し、赤字を避け、保守と次の相談につなげた案件でもあります。
決算書は、こうした一件一件の積み重ねでできています。数字を見るときは、その裏にある案件の物語を想像してみてください。
この章のポイント
- 大型案件の見積もりの見直しは、会社全体の営業利益を大きく動かす。
- 受注残高は来年以降の売上の先行指標。粗利率とセットで見る。
- 健全な成長は、受注の積み上がり、安定した粗利率、ストックの売上、資金の回収がそろった状態。