第7章 終わった後(運用・保守と次の案件)
作って終わりではない。
保守という
長い収入。
この章の、経営の問い
安定した収益を、
どう積み上げるか。
場面1 5年目の終わり、保守契約の打ち合わせ
新しいシステムが動き出して半年。開発の契約がすべて終わり、つばさ損保と蒼樹は、次の契約について話し合います。
宮下(つばさ損保)
システムは動き出しましたが、法律が変われば直す必要がありますし、障害が起きたらすぐ対応してほしい。作った方々に、引き続きお願いしたいんです。
早瀬
ありがとうございます。専任のチームを置いて、毎年の契約でお引き受けします。
運用・保守とは
システムを、
毎日動かし、直し続ける仕事。
「運用」はシステムを毎日動かし続ける仕事、「保守」は問題を直したり、変化に合わせて手直ししたりする仕事です。あわせて「運用・保守」と呼ばれます。
- 問い合わせ・障害の対応:動かない、計算が合わない、という連絡に応える
- 法改正への対応:保険の制度や税の決まりが変わったら、計算の仕組みを直す
- 小さな改修:業務の変化に合わせて、画面や帳票を手直しする
- 部品の更新:システムが使っているソフトウェアのサポート期限に合わせて、新しい版に入れ替える
ここで出てきたことば(押すと開きます)
- 障害
- システムが止まったり、正しく動かなくなったりすること。保険会社の基幹システムなら、保険金の支払いが止まる大問題です。
- サポート期限(EOS・EOL)
- ソフトウェアの提供元が、修正や更新の提供をやめる期限。期限が来ると安全に使い続けられなくなるため、入れ替えの仕事が生まれます。
保守契約の数字
一年あたりは小さい。
でも、毎年続く。
- 保守の契約(準委任)
- 年 約8億円
- 体制
- 約25名
- 粗利率
- 約30%
- 10年続いた場合の売上
- 約80億円
| 開発の契約 | 保守の契約 | |
|---|---|---|
| 金額 | 大きい(この案件では約212億円) | 小さい(年 約8億円) |
| 続く期間 | 終わったら、次の案件を取り直す | システムを使い続けるかぎり、毎年更新される |
| 粗利率 | 読みにくい(この案件では25%の予定が約18%に) | 読みやすく、安定している |
| 売上の性質 | 一回ごとの売上(フロー) | 積み上がる売上(ストック) |
保守の契約は、システムをよく知るチームが毎年同じ仕事をするので、作業量が読みやすく、粗利率も安定します。こうした契約を積み上げると、会社の売上の土台が厚くなります。序章で見た蒼樹の売上のうち、約3割が保守・運用だったのはこのためです。
あなたが保守の責任者なら?
保守のチームを、
どう組みますか。
安心感はありますが、年8億円の契約に対して人が多すぎると、保守の粗利はすぐに消えます。開発メンバーは、次の案件でこそ力を発揮できます。
蒼樹が選んだ形です。システムの中身を知る人を数人残し、知識を文書に残しながら、少人数で回せる体制をつくります。
短期的には費用が下がるかもしれませんが、システムを深く知る人が社内にいなくなります。お客様の信頼と、次の案件につながる情報も失いがちです。
蒼樹の答え:B
開発の中心にいた5人を含む約25名で、保守チームを立ち上げました。この5人は、つばさ損保の業務とシステムの両方を知る、会社にとっての財産です。
場面2 6年目の春、次の相談
宮下(つばさ損保)
実は、代理店さん向けのシステムもかなり古くなっていまして。基幹システムのことをよくご存じの蒼樹さんに、まず相談したいと思ったんです。
早瀬
ぜひ聞かせてください。(……保守チームが毎日いてくれるおかげだな)
小野寺
今度の見積もりでは、変更の手続きを最初から徹底してくださいね。
保守のチームがお客様の近くにいることで、困りごとが早く耳に入り、次の案件の相談につながります。さらに、損害保険の基幹システムを作り切ったという実績は、別の保険会社への提案でも大きな武器になります。こうして、一つの案件が次の案件を呼び込みます。
小野寺の経理メモ
保守の契約は準委任で、サービスを提供した期間に応じて、毎月売上を立てていきます。年間の代金を前もって受け取る契約なら、受け取った時点では「契約負債(前受金)」として負債に載せ、月がたつごとに売上に振り替えます。
毎年ほぼ同じ金額が続くので、予算や見通しを立てやすいのも保守の良さです。経営が「ストックの売上を増やしたい」と言うのは、この安定感があるからです。
この章のポイント
- 運用・保守は、一年あたりは小さいが、毎年続く「積み上がる売上」になる。
- 保守のチームは、少人数で、システムを深く知る人を中心に組む。
- お客様の近くにいる保守のチームが、次の案件の入口になる。