序章 ITコンサル会社は何で稼いでいるのか
人を増やせば、
売上は増える。
でも、それだけ?
この章の、経営の問い
売上は、何を増やせば増えるのか。
場面 三月の終わり、経理部にて
経理担当の小野寺は、月次の業績資料を作りながら、ずっと気になっていることがありました。ちょうど通りかかった営業本部長の早瀬に、思い切って聞いてみます。
小野寺(経理担当)
うちの売上って、結局なにが増えると増えるんでしょう。工場もないし、商品の在庫もほとんどない会社なのに。
早瀬(営業本部長)
いい質問だね。うちが売っているのは、ほとんどが「人の時間」と「知恵」なんだ。
早瀬
だから売上の式は、意外と単純だよ。かけ算が四つあるだけだ。
売上の式
売上は、
四つの数字のかけ算でできている。
ITコンサル会社の売上の大部分は、次の式でほぼ説明できます。
売上 ≒ 人数 × 稼働率 × 単価 × 期間
- 人数:お客様の仕事に就ける人の数(自社の社員と、協力会社の人)
- 稼働率:働ける時間のうち、お客様の仕事に就いている時間の割合
- 単価:1人が1か月働いたときに、お客様からいただく金額
- 期間:その仕事が何か月続くか
たとえば、100人のチームが稼働率90%、単価160万円で1年間働くと、売上は次のようになります。
- 人数
- 100人
- 稼働率
- 90%
- 単価(1人月)
- 160万円
- 売上(12か月)
- 約17.3億円
ここで出てきたことば(押すと開きます)
- 人月(にんげつ)・人月単価
- 1人が1か月働く作業量を「1人月」と数えます。人月単価は、その1人月に対してお客様からいただく金額のことです。
- 協力会社(ビジネスパートナー)
- 自社の社員だけでは足りないときに、一緒に働いてもらう外部の会社。ITの業界では「BP」と略されることもあります。
- 稼働率
- 社員が案件に就いている時間の割合。研修や社内業務、次の案件までの待機の時間は、稼働に入りません。
四つのレバー
どれを増やしても売上は増える。
ただし、効き方が違う。
| 増やすもの | 売上への効き方 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 人数 | 素直に増える | 給料や外注費(原価)も同じだけ増える。採用と育成には時間がかかる |
| 稼働率 | 同じ人数のまま増える | 100%に近づけすぎると、育成や次の提案に使う時間がなくなる |
| 単価 | 原価がほぼ同じまま増えるので、粗利に一番効く | 言い値では上がらない。構想や設計などの上流の仕事ほど高くなる |
| 期間 | 契約が長いほど、売上が安定する | 保守や運用のように、毎年続く仕事を持てているか |
蒼樹コンサルティングの場合
年間売上900億円の、
内訳をのぞいてみる。
蒼樹の売上は、大きく三つに分かれます。一回ごとに大きく動く「開発」と、毎年ほぼ同じだけ続く「保守・運用」の組み合わせが、この会社の形です。
数字は架空の会社の概算です。
一方で、売上から差し引く原価は約675億円。そのほとんどが、社員の人件費と協力会社への外注費です。つまり、この会社の原価の大半は「人」です。
- 売上高
- 約900億円
- 売上原価
- 約675億円
- うち人件費・外注費
- 約640億円
- 粗利(粗利率)
- 約225億円 25%
あなたが経営陣の一人なら?
来期の売上を1割増やしたい。
最初の一手はどれですか。
売上は増えますが、原価も同じように増えます。300人の採用と育成には時間もお金もかかり、すぐには売上になりません。
効き目のある一手です。ただ、稼働率はもともと高めで、上げられる幅には限りがあります。上げすぎると、育成や次の提案に使う時間がなくなります。
粗利に一番効く一手です。ただし、単価は言い値では上がりません。お客様にとって価値の高い仕事を任されることが前提になります。
蒼樹の経営陣の答え:BとCを組み合わせる
まずは今いる人の稼働を上げ、同時に単価の高い仕事を取りにいく。人を増やすのは、仕事を受けきれなくなってから。ところが、200億円の案件が舞い込むと話が変わります。それが第1章です。
小野寺の経理メモ
ITコンサル会社の損益計算書を見ると、売上原価の中身はほとんどが人件費と外注費です。製造業のような材料費や在庫は、ほとんど出てきません。
だからこそ「人が案件に就いているか」が、そのまま利益に響きます。案件に就いていない時間の給料は、どの案件の原価にもならず、会社全体の利益を押し下げます。この話は第4章でくわしく見ます。
この章のポイント
- ITコンサル会社の売上は「人数 × 稼働率 × 単価 × 期間」でほぼ決まる。
- 人数を増やすと原価も増える。粗利に一番効くのは単価。
- 一回ごとの開発と、毎年続く保守・運用の両方を持つと、売上が安定する。