第3章 プロジェクトが進む(要件定義〜本番稼働)
「順調です」の報告を、
どこまで
信じていいのか。
この章の、経営の問い
今、予定どおり進んでいるか。
5年間の工程
家を建てるのと、
よく似た順番で進む。
システム開発の工程は、家づくりにたとえるとわかりやすくなります。どんな家に住みたいかを聞き、設計図を描き、建て、検査して、引っ越す。この順番はシステムでもほぼ同じです。
- 1年目要件定義何を作るかを決める。家なら「何人で住むか、部屋はいくつ必要か」
- 2年目基本設計・詳細設計画面や処理の設計図を描く。家なら間取り図と、配線や配管の図面
- 2〜3年目製造(プログラミング)設計図どおりにプログラムを書く。家なら実際に建てる工程
- 3〜4年目テスト部品ごと、つないだ状態、業務全体と、段階を分けて確かめる。家なら検査
- 5年目移行・本番稼働古いシステムのデータを移して、新しいシステムに切り替える。家なら引っ越し
ここで出てきたことば(押すと開きます)
- 上流工程・下流工程
- 要件定義や設計のように、何を作るかを決める前半の工程を「上流」、製造やテストを「下流」と呼びます。上流ほど単価が高くなるのが一般的です。
- 本番稼働
- 新しいシステムを、実際の業務で使い始めること。「カットオーバー」とも呼ばれます。
この場面で使われる技術
新しいシステムは、
何でできているのか。
つばさ損保の新しい基幹システムは、次のような技術を組み合わせて作られます。それぞれ、これまで作った学習サイトで詳しく学べます。
- AWS(クラウド)システムを動かすコンピューターを、自社で買わずにインターネット越しに借りる仕組み。これだけは知っておきたいAWSの基本 →
- Java(プログラミング言語)保険料の計算や支払いの判定など、業務の処理を書く言語。大規模な業務システムでよく使われます。これだけは知っておきたいJavaの基本 →
- PostgreSQL(データベース)契約者や保険契約などのデータを、整理して保存しておく場所。はじめてのPostgreSQL →
- Docker(コンテナ)作ったプログラムを箱に詰めて、開発用のパソコンでも本番でも同じように動かす仕組み。これだけは知っておきたいDockerの基本(公開準備中)
工程全体の流れは「AI時代のシステム開発の基礎」でも学べます。
場面 3年目の6月、週次の進捗会議
製造が山場を迎えた3年目。開発チームのリーダーから、いつもの報告が上がってきます。
開発チームのリーダー
製造は85%まで進んでいます。概ね順調です。
真壁
先月も「80%で概ね順調」だったね。85%というのは、何を数えた85%?
開発チームのリーダー
……担当者に聞いた手応えです。
小野寺
経理の集計だと、この契約で使った原価は、計画より早いペースで増えています。
なぜ「90%」から先に進まないのか(押すと開きます)
- 90%症候群
- 「あと少しで終わる」という報告が何週も続く現象。手応えで進み具合を答えると、残っている難しい部分を軽く見積もりがちです。最後の10%に、全体の半分近い時間がかかることも珍しくありません。
進み具合の測り方
三つの数字を、
並べて見る。
真壁は、手応えではなく次の三つを並べて見ることにしました。「予定ではどこまで進むはずだったか」「実際に終わった作業はどれだけか」「お金(原価)をどれだけ使ったか」です。
| 見るもの | 全体に対する割合 | 数え方 |
|---|---|---|
| 予定 | 45% | 計画では、ここまで終わっているはずだった作業 |
| 実際に終わった作業 | 40% | 完成してテストを通った画面や機能の数で数える |
| 使った原価 | 47% | 約54億円。社員の作業時間と外注費を経理が集計 |
予定より5ポイント遅れているうえに、終わった作業より多くのお金を使っています。つまり「遅れていて、しかも予定より高くついている」状態です。このまま進むと、最後に原価が足りなくなります。
実際に終わったものを数え、使ったお金と比べる。この考え方は「出来高(できだか)管理」と呼ばれ、大きなプロジェクトの進み具合を測る基本の方法です。
あなたがプロジェクトの責任者なら?
「概ね順調です」の報告。
どう確かめますか。
信頼は大切ですが、手応えだけの報告では遅れに気づくのが数か月遅れます。200億円規模では、その数か月で失う金額も大きくなります。
真壁が選んだ方法です。「終わったもの」を数えれば、手応えに左右されません。使った原価と並べれば、お金の面のずれも見えます。
よい手がかりです。残業が増えているのは、遅れを人の頑張りで埋めているサイン。ただ、それだけでは「どれだけ遅れているか」まではわかりません。
真壁の答え:B(Cはその手がかりとして使う)
この日から、進捗会議では「完成した数」と「使った原価」を並べて報告する決まりになりました。そして、この数字の奥に、もっと大きな問題が隠れていることがわかります。それが第6章です。
場面 5年目の5月、大型連休
いくつもの山を越えて、5年目の大型連休。三日間かけて古いシステムのデータを移し、連休明けの朝、新しいシステムが動き出しました。
真壁
保険金の支払い、全件正常に処理されました。……長かった。
早瀬
おつかれさま。でも、お客様にとってはここからが毎日の業務だ。第7章の話になるね。
小野寺の経理メモ
「使った原価」の数字は、経理が毎月集計しています。社員がどの案件に何時間働いたかの記録(工数の入力)と、協力会社からの請求書が元になります。
つまり、経理のデータはプロジェクトの進み具合を映す、もう一つの鏡です。工数の入力が正確でないと、この鏡が曇ります。そしてこの「使った原価」は、第5章で見る売上の計算にもそのまま使われます。
この章のポイント
- システム開発は、要件定義、設計、製造、テスト、移行・本番稼働の順に進む。
- 「手応え」の報告ではなく、終わったものの数と使った原価で進み具合を測る。
- 経理が集計する原価のデータは、プロジェクトの健康状態を映す鏡になる。